逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

自叙伝㉝盗みをはたらく私

小学校4年生の終わり頃から5、6年の頃の私は
人生で一番悪いことをした時期だったと思う。

 


この時期は
鬱や解離性障害がひどい時期で
ほとんどの記憶がない。

 

それなのに何故か
悪さをした記憶だけが鮮明に残っている。

 


思い出す度に
胸が苦しくなり恥ずかしくなり消し去りたくなる。

 

 

 

この頃の私は

あすかちゃんがいなくなり
心にぽっかりと穴があいていた。

 

<自叙伝㉜様々な友人と仲良くなる私>で書いたように

 

私はあすかちゃんと入れ替えるように
転校してきたのりこちゃんと仲良くなった。

 


のりこちゃんは
私の家から歩いて1分の所に住んでいた。

 

偶然にも
養父母が経営するスナックがテナントで入っている
ビルの上のマンションの一室だった。

 

 

 

近所に住んでいて転校生ののりこちゃん。
私が仲良くならないわけがなかった。

 


思い返すと
私は最初からのりこちゃんのことが苦手だった。

 


ひどいことだが
あすかちゃんがいなくなって
誰でも良いから頼りになる人がほしかったのかもしれない。

 

 

 

多分、苦手だった理由は

 

のりこちゃんは私と少し似ていたからだと思う。

 


私と同じように衝動的でエネルギッシュで
いきなり何を言い出すか、やり出すか分からない子だった。

 


私とのりこちゃんが違う所も沢山あった。

 

のりこちゃんは
小学生とは思えないぐらい
知識や経験が豊富で
大人を言いくるめるように弁が立つ子だった。

 

背が高く手足が長くスラッとしていて
顔も切れ長の目に面長の輪郭で
見た目も大人っぽかった。

 

私は幼稚で単純で馬鹿な部分も目立っていたから
怖いイメージを挽回することがあったのだと思う。

 


のりこちゃんは
私と同じように周囲に距離を置かれても全くひるまず
そんな子ども達を言葉でまくしたてて馬鹿にして
周囲の子どもをコントロールしようとしていた。

 

私よりもずっと
周囲に恐れられていたように思う。

 

 

 

私と同じようなエネルギーの高さや衝動性を持っていて
色んなことを知っていて
人を馬鹿にするような大人っぽいのりこちゃん。

 

一方私は
養父母に縛られ制約の中で生きていたから
世間知らずだったし
幼稚で純粋ですぐに人を信じるところがあった。

 

 

 

のりこちゃんは
初めて私に近づいてきてくれた子だった。

 

グイグイと距離を詰めてきた。

 

今思えば
その距離の詰め方も私にそっくりだ。

 


いつも私から友達に懐いていって
私がグイグイと距離をつめていく。
友達を振り回す。

 

それを
のりこちゃんが私にやってくる。

 

私は完全にペースを乱されていた。

 


でも
いつも私から友達を追いかけて
好かれよう楽しませようと必死になっていたから

 

それを全部やってくれるのりこちゃんと居るのは
すごく楽だった。

 


私は自分は嫌われ者だと思っていたから
こうやって好いてくれることがすごく嬉しかった。

 


正直を言うと
みんなに疎まれている子と一番の仲良しということが
少しだけ恥ずかしい気持ちもあった。

 

でもそれ以上に
学年で一番大人っぽく元気で権力のあるのりこちゃんが
自分のことを好いてくれている
という誇りたい気持ちもあった。

 


とてもよく似ていて
お互いを強く必要としている私とのりこちゃん。

 

仲良くなるペースは尋常ではなかった。

 


朝は早めに私の家に迎えに来て
ボロボロの私の家に上がり込む。

 

養父母は寝ているからバレなかった。

 


学校でもずっと一緒で
放課後もずっと一緒だ。

 


本当に片時も離れなかった。

 

 

 

ここまでは何の問題も無い。

 

変わり者で
友達にいつも嫌われる私が
こんなに仲良しの友達が出来た。

 

家や学校の問題で苦しんでいるときに
自分と似ている子と過ごす時間はありがたかった。

 


でもこれでは終わらなかった。

 


のりこちゃんの家に迎えに行ったとき
のりこちゃんのご両親が挨拶をしたいと出てきた。

 

わざわざ嫌だなぁ
私は変な子だからきっと嫌がられるだろうなと思った。

 


想像とは違った。

 


とても上品なお父さんとお母さん。
お金持ちの雰囲気が出ていた。

 

休日でもシャツにスラックス姿で
スリムでロマンスグレーの優しそうなお父さん。
ブラウスに膝丈のタイトスカートですごく女らしく
ふくよかで優しそうなお母さん。

 

小学生ののりこちゃんの親の割に年齢がかなり上に見えた。
50代ぐらいだろうか。

 


「のりこと仲良くしてくれてありがとう」
「わがままで乱暴だから何かされたら言ってね」

 

そう言われてビックリした。

 


私がそうやって恐れられる側だったのに
のりこちゃんの親が私にそう言ったのだ。

 

最初はその意味が全く分からなくて
親特有の謙遜なんだと思っていた。

 

「うるせぇババア」
いきなり親に暴言を吐くのりこちゃん。

 

親には絶対服従の私には信じられず
いつもの癖でバッと身を守るようにして
のりこちゃんのお父さんとお母さんを見る。

 

「・・・まったく。そうじゃないでしょ」
「のりこちゃん、だめよ」

 

本当に驚いた。

 

親という概念がひっくりかえった。
こんな関わり方があるのかと驚いた。

 


その後
クラスの誰かが
「のりこちゃんの親って年齢いってからやっと出来たから
 やたらと甘やかしたからああなったんだ」
なんて言っていて
私は猛烈に怒ったのを覚えている。

 


ところが後になって
本当にそうかもしれないと思ってしまったほど
のりこちゃんは問題のある子だった。

 

 

 

放課後
クラスの女の子は何人かの友達と色んな遊びをしていた。
私もたまに誘われた。

 

でものりこちゃんが
「ダメ。私と遊ぶから」と私の代わりに断ってしまう。

 

もう完全に私はのりこちゃんの言いなりだった。

 

 

 

毎日毎日ずっと一緒に過ごすうちに
のりこちゃんは退屈をしはじめた。

 


そしてこんなことを言い出した。

 


「ねぇテレクラって知ってる?」

 

そう言うやいなや
公衆電話に連れて行かれ
のりこちゃんがどこかに電話をかける。

 

急に大人の女の人のような甘えた声で話している。

 

そして
いやらしい言葉を使ったり
はぁはぁと吐息をもらしたりする。

 

一通り話すと電話を切る。

 


「一時間後にあの場所で待ち合わせたから
 馬鹿がくるか見に行くよ」

 

「チェックのシャツにグレーのズボン。
 めがねの男がいるはず」

 


なんだかもう
とんでもない犯罪をおかしているような気持ちで
のりこちゃんの後ろを怯えながら歩いていたのを覚えている。

 

待ち合わせの場所に着いた。

 


本当にいた。

 

二人で顔を見合わせて笑った。

 


小学生なのに大人の男性を翻弄するのりこちゃんが
かっこよく見えた。

 

自分は何も自由にならず
養父母に意のままに操られている現状。

 

のりこちゃんをすごい人だと思った。
尊敬してしまった。

 

 

 

こんなことを繰り返しながら遊んでいた。

 

恐ろしい小学生だ。

 


その後
何度か繰り返しているうちに
いたずらに気づいた男性が電話越しに怒鳴ってきた。

 

のりこちゃんは
「ばれちゃった」なんて笑っていたけれど
私は今にも号泣しそうなほど怖かった。

 

「こんな遊びなんてしたくなかった」
「のりこちゃんのせいだ」
と心の中で恨んでいたと思う。

 

 

 

テレクラの遊びが終わって
また2人で退屈をしだした。

 


次にのりこちゃんが言い出した。

 

「ねぇ万引きしたことある?」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間
私は怖くて固まった。

 


「ダメだよ」
「お店の人困るよ」

 

泣きそうになりながら
のりこちゃんに逆らえなくなっていたけれど
私なりに必死に抵抗する。

 

私は
悪いことはしてはいけないという判断がついていたというより
ただ怖かったような気がする。

 


「何言ってるの。ゲームだって。安いやつなら
 お店の人だって分からないくらいだよ」

 

「いいから。みゆちゃんは見てなよ」

 


そう言って
私が戸惑っていると
私を引っ張ってスーパーに行った。

 


のりこちゃんは
いちごのチョコを手に取ると
スーパーをうろうろと歩き回り
サッとトレーナーのお腹のところに入れた。

 


そして2人で店を出た。

 


怖くて怖くて
頭が真っ白で

 

店を出てから
後ろを振り返らずとにかく歩き続けていた。

 

「みゆちゃん」
「みゆちゃんったら」

 

のりこちゃんに腕をつかまれる。
ずっと声を掛けられていたのに気づかなかった。

 


トレーナーのお腹の所からいちごのチョコを取り出す。

 


この瞬間よく分からないけれど
強い興奮を感じた。

 


とんでもない偉業をやりとげた気持ち。

 

2人で協力し合って成し遂げたような一体感。

 


二本入っていた大好きないちごチョコを
2人で笑いながら食べたときに
私の中の何かが変わったような感じがした。

 


善悪とか恐怖とかが吹っ飛んで

 

世の中にこんなに楽しく興奮することがあるのか

 

そう感じてしまったように思う。

 

 

そして次に遊んだ時に
私もやると言い出してしまう。

 

場所は小さい頃から通っている
近所の個人経営のスーパー。

 


私が小学校低学年の頃から
養母に頼まれた買い物をしていて
「こんなに小さいのにお利口だね」と
そこのおばちゃんに褒めてもらうのが大好きだった。

 

大好きな場所だった。

 


よりによって何故そんな場所を選んだのか。

 


思い出すと
本当に悪いことだという意識が吹っ飛んでいて

 

こんな大変なことをやるなら
慣れ親しんだ場所

 

なんて馬鹿な考えだったんだと思う。

 

 

 

私はビックリマンチョコを手に取った。

 

のりこちゃんと同じように
トレーナーのお腹のところに隠す。

 

店を出る。

 

 

「みゆちゃん」

 

あの小さい頃に
いつも褒めてくれたおばちゃんに呼び止められる。

 


のりこちゃんは
すぐに走って逃げた。

 


血の気が引いた。

 


自分は何てことをしたんだ。
おばちゃんに知られてしまった。
親にバレる。
学校に知らされる。

 

一瞬で頭の中を駆け巡る。

 


おばちゃんに腕を引っ張られ
店の裏につれていかれる。

 

「みゆちゃんどうしたの」
「こんなことする子じゃないよね」
「お友達に無理やりさせられたの?」

 

パニックになって何も言葉が出てこなかったけれど
とりあえずうなずいて人のせいにしようとしていた。

 


顔面蒼白の私を見たおばちゃんは
「二度とやらないとおばちゃんと約束して」
「お母さんにも学校にも黙っておくから」
と言ってくれた。

 


その場はそれで収まったけれど
私の気持ちは収まらない。

 

とんでもないことをした自分。
それがバレてしまった恥。
いつ親や学校に知らされるか分からない恐怖。

 

しばらくは
犯罪を犯した自分のイメージは無くならなかった。

 


とてつもない怖さだったのに
一度覚えてしまった私のこの盗み癖は
簡単には治らなかった。

 


もうあまりに思い出したくないから
いくつかは都合良く忘れているかもしれない。

 

友達の文房具を何度か盗んだことがあった。

 


まだ他にもある。

 

 

 

のりこちゃんはよくおごってくれた。
色々買ってくれた。

 

いつもお腹がペコペコの学校の帰り道。

 

近所のやきとり屋さんでやきとりを買ったくれたり
お肉屋さんでコロッケを買ってくれた。

 


養父母が買ってくれなかった
欲しかったレターセットやシールを買ってくれた。

 


私がのりこちゃんのおこずかいの心配をすると

 

「次はみゆちゃんがおごってよ」

 

と言い出す。

 


私がおこずかいなんてないと言うと

 

「親の財布からお金を抜けば良いよ」
「一万円ぐらい分からないよ」

 


私はこの頃
盗むことに罪悪感が無くなっていたのかもしれない。

 

それに
のりこちゃんに散々おごってもらっていたから
断れなかった。

 


羽振りがよくなっていた養父母の財布から
たびたびお金を盗んでは
のりこちゃんと使って遊んでいた。

 

もちろんバレることになる。

 

 

 

バレたときの記憶はない。

 

ただ全身アザだらけになるまで殴られ
学校で椅子に座れなかったのは覚えている。

 

自分がやったことのせいだから
誰にも言えなかった。

 

 

 

養父母は
その頃は私のことを
大人しくて真面目な良い子だと思っていたから

 

のりこちゃんの影響だと確信し
どうやってだか忘れてしまったが
それから一切会わないようにさせられた。

 


私も自分がやったことなのに
のりこちゃんのことが好きではなかったし
罪悪感に耐えられなくて
多分、この悪事は全部のりこちゃんのせいにして
一切遊ばなくなった。

 


今思うと
全部のりこちゃんのせいにしたけれど

 

のりこちゃんに出会わなくても
私はこのような問題行動を起こしたかも知れないと思う。

 


心理学を学び
カウンセリングから分かったことは

 

発達障害愛着障害のある子どもに盗難癖が起きやすいということ。
それは心の病だということだ。

 

 

 

この頃の自分を思い出すたびに

 

自分は何てことをしていたんだ。
自分は救いようもない悪い人間だ。

いつも自分を見放した。

 


ただでさえ自分のことが大嫌いで軽蔑していたのに
さらにドン底まで落ちていくような感じがした。

 


長い間ずっと
自分がどんなに良く変化しても

 

根本的には悪人なんだと思い込んでいた。
これはぬぐえない汚れなんだと思っていた。

 


でも心理学を学んで
やっと自分を恐れなくなった。

 

もちろん私がやった事は正当化されるわけではない。

 


でも
私の行動には理由があって

 

私と同じ性質を持っていて
私と同じ養育を受けたら
誰だって同じような行動をとってしまう可能性がある。

 


これが分かってから

 

罪は罪だけど
自分がやってしまったことは消えないけれど

 

心の病気だったのだから
人間性とは関係が無い。

 

心を回復させればいい。

 


心を回復させた今の私は
悪いことをしたことがある人間だけど
悪い人間では無い。

 


そんなふうに思えるようになった。

 


私はこんなに沢山の恥ずかしい経験があって
それでも回復してきた。

 

そんな自分の経験があるから

 

人の悪い行動に対して
簡単に見限ることが出来ない。

 

人間性とは関係なく、心の病だと思うのかもしれない。