逆境から立ち上がった臨床心理士

―ADHD・ASD・ギフテッド・養護施設出身の被虐待児―

ちゃこ鼻腔腫瘍⑥

検査結果が出ました。

 


先生が神妙な顔をしています。

 

まさか

 

そんなはずはない・・

 

 

 


「残念ながら腎臓に転移をしていました」

 

「そのせいで食べられなかったのかもしれません」

 


うそだ。

 

ちゃこはもうダメっていうこと?

 

 

 

わかっていても
聞かずにはいられませんでした。

 

「これから何をしたらいいんですか」

 

 

 

先生は
「もう出来ることはありません」

 

「耳もこんなに黄色くなっていて黄疸もひどい」
「低体温になっている」
「長くはないでしょう」

 


頭が真っ白になりました。

 


涙が止まりません。

 

 

 

これまで何度も絶望しては
治療して希望を持ってきて

 

色々頑張ってきたのに
もう飲まず食わずのまま死んでいくの?

 

放射線治療に切り替えたから?

 


「抗ガン剤治療を開始したときには転移していたのかもしれない」

 

「リンパ腫で腎臓に転移したら抗ガン剤でも無理だった」

 

先生は言います。

 

 

 

じゃあ何のために抗ガン剤や放射線治療をしたんだろう。

 


抗ガン剤をしなければ
もう少し食べられる時間は長かったはず。

 


こんなに何度も何度も
病院に連れて行った。

 

一ヶ月で13回も。
車で往復二時間以上も通院に時間がかかる時
ずっとつらそうだった。

 


抗ガン剤を投与されてる間怖い思いをして

 

放射線治療をして怖い思いをして

 

そのせいで
ストレスで腎臓癌が進行したんじゃないの?

 

 

 


どうせ一ヶ月程度の余命だったら
もっともっと

 

のんびりと
私に甘えさせながら最期を迎えられたんじゃないの?

 

 

 

後悔ばかりがどっと押し寄せてきました。

 

 

 

友人は治療のお陰で
ちゃこは顔が崩れずに済んだんだ

 

ちゃこは呼吸が出来たんだ

 

と言ってくれました。

 


たしかにそうです。

 

ちゃこの可愛い顔はそのまんまでいられた。

 

腫瘍で腫れているときは
呼吸が苦しそうだった。

 


だけど
なんにもしなかったら
きっともっと生きられたんじゃないかと思うんです。

 


私は何をしてきたんだろう。

 


強制給餌も
腎臓癌のせいで気持ち悪くて仕方がないから
無理だったのに

 

それなのに与え続けた。

 

どれだけ辛かったろう。

 

 

 

これまでの
毎日毎日必死に調べて
最善を尽くしてきた私の頑張りは

 

ちゃこをただ苦しめて命を縮めただけだった。

 


その事実は
もう本当に耐えられない苦痛でした。

 

 

 


本当に現実なのかな。

 

つい二ヶ月前まで元気だったのに。

 


4キロあった体重も
2キロまで・・・
半分まで減ってしまいました。

 

大好きなちゃこの立派な筋肉の太股は
がりがりになってしまった。

 


すごく運動神経がよくて
飛び回ってたちゃこが
もうヨタヨタしか歩けない。

 


あんまりごはんに執着しなかったちゃこが
ここ数年は食欲が出てきて
美味しそうに食べている姿が楽しみだった。
抗ガン剤治療をした日からもうその姿を見られなかった。

 


若い頃からよくお水を飲む子で
ちゃこ独特の飲む音があってそれが本当に可愛かった。
もうそれが聞けない。

 


ちゃこの口のにおいや体のにおいが好きで
よく顔をうずめて嗅いでた。
もう病気特有のにおいに変わっていて
ちゃこのにおいは無くなってしまった。

 


ちゃこの喉をならす音は大きくて
私と目が合うだけで嬉しそうに一日中喉をならしてくれる子だった。
強制給餌を初めてから
ちゃこが喉をならすことは無くなってしまった。

 


ちゃこの鳴き声は鈴を転がしたような声で
ふるるって声がすごく可愛かった。
子どものように甘えるときに出す声も可愛かった。
もう苦しそうな聞いたことがなかった声で鳴くだけ。

 

 

 

もう全部全部無理なんだな。
戻らないんだな。

 


本当に以前のちゃこの姿はもう見られないんだな。

 


もうちゃこは
本当に死んでしまうんだな。

 

 

 

こんな短期間で
怒濤のようにちゃこが変わっていって

 

心がついてきません。

 


ただ毎日ちゃこの苦しそうな姿だけを見ていました。

 

 

 

いつかは闘病の日々が来るかも知れないと
想像はしていました。

 


でも
少しは食べられたり
水は飲めたり
眠れたりすると思っていました。

 

 

 

ちゃこの闘病は壮絶でした。

 


腎臓癌のせいか
気持ち悪いようで
長く眠れません。

 


ヨタヨタと歩き回って
寝床を30分おきに変える。

 


だから何カ所も寝床を作ってあげる。

 

 

 

ごはんが食べられないだけでなく水も飲めない。
お水が好きだったのにどうしても飲めない。
水の器の前で一時間うずくまっている姿を見るのが苦しかった。

 

 

 

寒いのに
あったまると気持ちが悪くなるようで
寒いところに行きたがります。

 


ちゃこは寒がりで
初夏でも布団に潜る子でした。

 

それなのに
夜中に震えながら出窓にうずくまっていたり
キンキンに冷えたお風呂場に入りたがります。

 


10月末でもう夜中はすごく寒い。

 


低体温になってしまうから
移動するごとに毛布を掛けてあげます。

 

 

 

ちゃこは粗相を一回もしたことが無い子で
すごく綺麗好きで
トイレが綺麗じゃないと抗議するし
掃除後に必ずトイレにやってくる子だった。

 


そんな子が
何故か自分の寝床の毛布や
カーテンや羽毛布団でしかトイレが出来なくなりました。

 


脱水を防ぐために
点滴に通っていたので
おしっこの量も多く一日五回くらい粗相をする。

 

毎日のことで羽毛布団を洗ってもきりがなく
家中が大変なにおいでした。
でも最期ぐらい好きにさせてあげたかった。

 

 

 

唯一闘病中に幸せだった場面がありました。

 


夜中移動するちゃこに合わせて
私もほとんど眠れずにいた時

 

またお風呂場に行きたがるので
寒い中
私も毛布にくるまって
暖まるのを嫌がるちゃこを包んで
夜中にお風呂場で二人で過ごしていました。

 

寒がりのちゃこが
キンキンに冷えたお風呂場で
眠れずに
ただうずくまっています。

 

見ているのが本当に辛かった。

 

 

 

嫌がるけど低体温のちゃこを暖めたくて
うずくまる苦痛を和らげたくて

 

ちゃこの体に私の顔をうずめて
「気持ち悪いよね」
「寒いよね」と話しかけると

 

かすかに喉を鳴らしはじめました。

 

 

 

号泣しました。

 

強制給餌から私には近づかなかったし
逃げるようになりました。
喉をならすことも一度もありませんでした。

 


ちゃこは気持ち悪くて寒くて眠れなくて苦しいときに
喉をならしてくれた。

 

少しは楽になっただろうか。

 


久しぶりに二人でくっついて過ごすことが出来ました。

 

ちゃこもいつも一緒にいたこと思い出してくれたかな。
寒い中一緒にいること、喜んでくれてるかな。

 

そんなふうに思って
一度だけ報われた瞬間でした。

 

 

 

その後ちゃこは
水も飲めないご飯も食べられない眠れないまま
苦しそうにしています。

 


ある日
寝床で

 

おしっこにまみれているちゃこを発見しました。

 

寝床にしてしまうけどその後必ず移動していました。

 

それなのに
顔の横に粗相をした毛布がくっついているのに
動こうとしない。

 

ぐったりと息をしています。

 


衝撃でした。

 

ちゃこは本当に綺麗好きな子だった。

 


それなのに
粗相をしてしまって
すぐ横に綺麗な寝床があるのに移動をあきらめている。

 


どんな気持ちだろう。
ちゃこの尊厳は守られていない。

 

 

 

私はこのときに
安楽死を考えました。

 


賛否両論だと思います。

 

むしろ
反対意見の方が多いでしょう。

 


でもいくら良くないことだと言われても

 

ちゃこがもう
ただ苦しいだけだっていうことは
ずっと見続けてきた私が一番分かっています。

 

 

 

寒いのが嫌いなのに
気持ちが悪くて寒いところでうずくまっている

 


気持ちが悪くてゆっくり眠ることすらできない

 


甘えたいのに甘えられない

 


何にも食べられない
水すら受け付けない

 


綺麗好きなのに
おしっこにまみれても動けない

 

 

 

もう一ヶ月半
よく頑張った。

 


なにも分からないまま
急に気持ち悪くなって食べられなくなって
病院に連れ回されて
本当に辛かったよね。

 


もういい。

 

楽にさせてあげたい。

 


私は決断しました。

 

 

 

 

 


かかった費用

 


〇11月8日

 

診察料    2,000
検査料 11,790
画像診断料 16,000
注射料 2,300
処置料    2,000

 

計      36,817

 


〇11月9日

 

再診療    864
皮下輸液料  4,320
制吐剤注射料 2,160

 

計      7,344

 


〇11月10日

 

再診療    864
皮下輸液料  4,320
制吐剤注射料 2,160

 

計      7,344